投稿:腐ったリンゴ

「4人のScrumチームの中に明らかに生産性の悪いメンバーがいるのだけれども、自分としてはそのメンバーを切るということはしたくない、ただ他のメンバーが問題にしそうなので、こういう時はどうしたら良いのだろうか?」という、悩める管理者による投稿とそれに対する100件以上のレスポンスがありました。それについて、ポイントの整理と若干のコメント。

投稿について



Yahoo Groups:Rotten apple in Scrum team
http://groups.yahoo.com/group/scrumdevelopment/message/35585


生産性の低いメンバーを「腐ったリンゴ」と書いたことが反省され、後にタイトルは「集団ではなくチーム」に変更されます。ここからも分かるとおり、投稿者の意識が「生産性の低いメンバーをどうするか」ではなく、「チームとしてどう考えていけばよいのか」という点にあり、そのことが繰り返し強調されます。
メッセージを投稿した人の問題意識が一番分かりやすく要約されていると思われる部分を抜粋しておきます:

I'll try this 5 Why's:
1. Why?
I'm worried because this guy has significant (and obvious to the team)underperformance.
2. Why?
I'm worried that on next sprint (or in private) someone could bring upthis issue.
3. Why?
I'm worred that this could (and probably would) cause arguing -between team members (in any combination)
4. Why?
I'm worried that this could impact team atmosphere, which is prettygood for now (but jokes started as I mentioned)
5. Why?
I'm worried that this could impact team productivity and even worse,transform team to the group of individuals.


5つのWhyで説明してみます。

  1. 悩んでいるのは、そのメンバーが明らかに生産性が低いから。
  2. 悩んでいるのは、次のスプリントで誰かがそれを問題にするのではないかと言うこと。
  3. 悩んでいるのは、そのためにチームメンバー間で議論が巻き起こるかもしれないということ。
  4. 悩んでいるのは、そのせいでチームの雰囲気が悪くなるのではないかと言うこと。今はとても良いのだけれど、揶揄され始めてはいる。
  5. 悩んでいるのは、それがチームの生産性に影響し、さらには、チームを個人の集合に変えてしまうのではないかということ。

http://groups.yahoo.com/group/scrumdevelopment/message/35768


***


以下、生産性の低いメンバーをどう見ればよいのか、チームとしての雰囲気を悪くしないためにどうすれば良いのかという観点から提供されたアドバイスをいくつか取り上げます。

ポジティブなふりかえり

ふりかえりがネガティブな方向に向かないための方法として、冒頭で行うべき宣言が紹介されます。

Regardless of what we discover, we understand and truly believe that everyone did the best job they could, given what they knew at the time, their skills and abilities, the resources available, and the situation at hand.


どんな問題が出てきても、私たちは次のことを理解し、心から信じます。チームのメンバーは全員が、その時に知っていたこと、スキル、能力、手に入るリソース、そして状況に応じて、自分にできることを全力で行ってきたのです。
http://www.retrospectives.com/pages/retroPrimeDirective.html
※2011/05/21 訳文を修正*1

メンバーを結ぶペアプログラミング

チームとして機能するための方策として、ペアプログラミングが提案されます。

When you said, "I'm asking for advice/method/trick/anything to solve
this situation," I suggested promiscuous pair programming because it
will require more cooperation and interaction between the team members.
It also helps people to learn from each other. And it makes
"individual velocity" a moot point since it can no longer be measured :-).


「アドバイス/方法/テクニック/その他この状況を解決するものを教えて下さい」ということであれば、無差別のペアプログラミングがいいと思いますよ。そうすることで、チームメンバー内で一層の協力と相互のやりとりが必要になりますから。また、メンバーがお互いから学びあうことの助けにもなります。それに「個人のスピード」が意味の無いものになりますよ、もう計ることができなくなりますからね(^^)
http://groups.yahoo.com/group/scrumdevelopment/message/35687


***


さらに議論は「チーム全体のメンタルな管理を誰がするべきなのか?」に及びます。

That's the real question: Who is in charge for team morale? ...
Another question: Who is responsible for grading developers, nominate
them for awards, bonuses etc. ...
And at last, the key question: how SM fits in those responsibilities?


本当に問題なのは、「誰がチームのモラルに責任を持つのか?」
それから、「誰が開発者の評価をするのか?」
最後に、「それはスクラムマスターの責任なのか?」
http://groups.yahoo.com/group/scrumdevelopment/message/35608

モラル関しては、CockburnがAgile開発におけるプロジェクトマネージャの役割に関連付けたコメントをしています:
http://groups.yahoo.com/group/scrumdevelopment/message/35609

コメント

この投稿とレスポンスが非常に興味深いものとなっている理由は、議論の中心が「生産性の低いメンバーをどうするか」ではなく、「チームとして、どう結果を出していくか」という点にあるためだと思われます。何か問題が発生した時に、「誰かの問題」ではなく、「チームの問題」として支えあいながら解決していけるチームを作る上では非常に参考になる議論です。


一方で少し気持ちが落ちる議論でもあると思います。というのも、「そりゃこういうチームが作れればいいけれど、現実的には・・・」という印象がどうしてもぬぐえないからですね。「大規模開発ではムリ」という第一感はありますが、それは多分チームの作り方を工夫すればどうにかなる問題だとおもいます。それ以上に深刻なのは、この投稿で強調されている「チームとして機能する」というテーゼを突き詰めた時に出てくる本当の問題が、「生産性の低いメンバーのスキル」ではなく、「個人の生産性が低いことを問題視するメンバーの意識」にあるからでしょう。


XPのテーマの一つである"Everyone can learn from everyone"を、本当の意味で自分の中心に据え、高いレベルのスキルを持ちながら、「新人の方とペアプログラミングをすることで、学べることはありますよ。」と言い放つエンジニアは頼りになりますし人格的にも好感が持てますが、そういう人が一体どれだけいるのでしょうか。。。しかも、別々の会社から集められたメンバー同士だったりすると、「なぜ競合他社の新人教育を?」みたいな意識は拭いきれないところがあると思います。


また、チームを作る上でのプロジェクトマネージャ(またはリーダ)の責任も強調されますが、そういう人ばかりじゃないのが現状ですよね。


なかなか困難な課題ですが、1エンジニアとして自分にできることは、まず自分が「高い技術を持ちながら、常に謙虚な姿勢を失わない」人間に、まずは自分がなることなんでしょうか。


※なお、ここで紹介したものはごく一部であり、全体を通じて考えさせられるコメントがたくさん出てきます。興味を持たれた方はぜひオリジナルをご参照下さい。

補足

その他の関連リンク:

*1:修正前:「その時に知っていること、スキル、能力、手に入るリソース、そしてその時の状況に応じて、全員が自分にできることを全力で行うということを。」時制を誤訳してました