『Agile Conversation』翻訳のお知らせ〜『組織を変える5つの対話 ―対話を通じてアジャイルな組織文化を創る』

2024/3/5にオライリー・ジャパン様より出版される『組織を変える5つの対話 ―対話を通じてアジャイルな組織文化を創る』のご紹介。

はじめに

こちらの本は Douglas Squirrel氏とJeffrey Fredrick氏の著作『Agile Conversations: Transform Your Conversations, Transform Your Culture』(IT Revolution Press、2020年)の全訳となります。翻訳をするのは『リーダーの作法』(オライリージャパン、2022年)以来約2年ぶり、8冊目になります。まずはこの本を翻訳することになったきっかけから。

フルストリームソリューションズも気づけば4期目に入っているのですが、ここ1、2年はクライアント様の基盤刷新やDX推進を支援しつつ、裏ではコミュニケーションに関する技術の整理を行っていました。以前に『スモールリーダーシップ』(翔泳社、2017)で書いたことの、さらに根っこを探る作業です。

「DXを実現するためには結局『人』が大切である」はもうわかりきったことではあるのですが、ここで「人」が意味するところは「優秀な人材を集めなければならない」ではなく「組織として未知の領域に踏み出していくためには、構成メンバー同士の建設的な話し合いが欠かせない」ということです。

そこで大切なのが「建設的な話し合いをする技術」なのですが、この点についてはあまり体系立てて語られることがなく、「コミュニケーション能力」という言葉で丸められ、各メンバーの素養だと考えられてしまう傾向があるように思います。しかし「社交性」や「話の上手い下手」といったことではなく「建設的な話し合い」に限れば、その技術は因数分解が可能だし、整理して体系立てることで教育することもできるだろうと考えていたのです。今回の翻訳はその一環で提案させていただいたものでした*1

2つの価値

さて、この「組織変革に欠かせない建設的な話し合いの技術」を体系化し、実践可能な形で整理しているのが『組織を変える5つの対話』です。「5つの対話」の内容は後述するとして、まず本書全体を通底する「2つの価値」について説明します。

2つの価値とは「自己開示」(transparency)と「他者理解」(curiosity)です。 自己開示とは「自分の意見を隠すところなく相手に伝えること」であり、他者理解とは「相手の意見に関心を寄せて、相手の言葉を通じて意見を理解しようとすること」です。こう書くと「話し合いをするんだからどっちも大切だよね」なのですが、実は両者を高い水準でバランスよく行うのは簡単ではありません。

ちょっと思い出してみてください。自己開示について、上司や同僚と話をするときに、考えていることをすべて言えているでしょうか。これは「嫌いな人に『嫌い』と言う」という低俗な話ではなく、例えば自分の中の違和感を「この点が違うと思う/おかしいと思う/こうしてくれないと困る」と言えているでしょうか?ということです。また他者理解について「何か自分と意見が違いそうだ」と感じた時にその違いをきちんと突き詰めて解決できているでしょうか。

こうした点をふりかえるための具体的な手法として紹介されるのが「対話診断」です。これは紙を縦に二等分して左右に考えていたことと実際の発言をそれぞれ書くというシンプルなものですが、実際にやってみると「自己開示と他者理解を高度にバランスよく」というのがどれほど難しいのかよくわかります。興味を持たれた方はぜひ本書を読んで実践してみてください。

5つの対話

タイトルにもなっている「5つの対話」とは真に高パフォーマンスな組織になっていくために通らなければいけないステップを5つに分解したものです。

  1. 信頼関係を築く
  2. 心理的安全性を確立する(不安を乗り越える)
  3. 共通の理念(WHY)を作り上げる
  4. 約束をする(コミットメントを行う)
  5. 説明責任を果たす

自己開示と他者理解をベースにそれぞれを行うための手法が具体的な対話例とともに解説されていきます。「対話分析」を行いながら、各ステップの目的に照らしたときの問題点を発見し、具体的な手法を用いて対話のやり方を改善していくという流れです。

訳者あとがきでも少し触れたのですが、それぞれの具体的な手法で目新しいものがあるかと言えば必ずしもそうでもありません。全体としては何か「必殺技」というよりは、基礎の言語化というか何かしら知っていることだと思います。もちろん「人のためのテスト駆動開発」のように聞いたことがなくて興味をそそる手法も含まれてはいますし、「言われてみればそうだよね」というものも改めて定義すること意識・実践ができるようになるというのも大きいです。しかしそれ以上に価値があると思うのは、手法の使いどころと目的がはっきりしていること、そして実施すべき順序が明確になっていることだと思います。「できているつもりでも実は穴があった」ということに気づけるのは大きいですね。本書を一通り読んだ後で自分たちがどこまでできていて何が抜けているのか、それはなぜなのか、といったことを掘り下げる活動は意義深いものになると思います。

終わりに

今回の翻訳ではひとつ、これまでやりたかったけれどなかなか実現できなかったことができました。それが「読書会をやりながらの翻訳」です。本というものが一人で読むより大勢で議論しながら読んだ方が理解が深まるのはご存知のことと思いますが、これまで英語の本の読書会や翻訳の読書会の経験はあっても「翻訳原稿を作りながら読書会をする」はなかなかできなかったのです。

それが今回、翻訳チームのお二人の協力のおかげで実現できました。一人で訳すより理解も相当深まりましたし、何より楽しかったです。私のわがままに付き合ってくださったことに、この場を借りて深くお礼申し上げます。いつもありがとうございます。

この記事を読んでくださっている方々も、ぜひ読書会をすることをお勧めします(この点については著者の二人からのおすすめでもあります)。かなり実践的な本なので、実際に組織の中で活用していくためにも内容を理解して理念に共感している仲間が周りにいるのはとても心強いと思います。

 

 

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*1:他にカードゲームの開発やそれに基づく研修の開発も行なっているのですが、それについてはまた別の機会にご紹介できればと思います。